『花の精 ニンフ』とは、イトカメムシの幼虫のことをさしています。
イトカメムシはカメムシ目カメムシ科の不完全変態の昆虫で、決して珍しい存在ではありません。撮影したものは2〜3ミリから羽化直前の1センチくらいの幼虫です。
著者はこの小さな幼虫をつゆ草を接写しているときにたまたま見つけ、生態がわかるようになった頃には、健気な小さな体で生きようとする可憐な姿にすっかり魅了され、自宅での繁殖もおこないながら、対話するように撮影し続けました。
それは10年にも及びました。
人知れず小さく息づいている生命に対し、いとおしさ、もののあわれなどの日本の美意識に強く意識することも、このイトカメムシの撮影から得たことでした。
さまざまな野の花の蜜を吸うイトカメムシとその花との競演は、幻想的な世界へと誘ってくれます。あたかもニンフのように夢の世界の水先人でもあるかのようです。
静けく、清かな時間をとじ込めた1冊をお楽しみください。